今年2021年12月14日、冷たい雨の降る師走のこの日、東京・四谷にある紀尾井ホールで素敵なクラシック演奏会が披かれた。『バルカン室内管弦楽団 東京公演2021』、副題には〈World Peace Concert in TOKYO 2021〉とある。
 演奏された曲目はセルビアの民族舞曲、バルトーク『弦楽のためのディヴェルティメント』、藤井隆太氏をメインに据えた『フルート協奏曲』、ドヴォルザークの『弦楽セレナーデ ホ長調作品22』などなど。
 ステージ上には、バルカンから来日したオーケストラのメンバーが9名と、助っ人として招集された日本のミュージシャンが20数名。ソーシャルディスタンスをとりつつ、一緒に楽譜を見ながら演奏している。
 久しぶりに生で、直接聴くから、だろうか、バイオリンやチェロの音色が、心に沁みる。目の前で楽器が奏でる音楽は、まるでひと肌に温められた酒のように、じんわり心地良く、酔わせてくれる。自粛疲れの身体の芯が、解けていくようだ。
「今回、この公演が実現したのは、ほとんど奇跡です。すごい体力が必要でした。ええ、体力ですね(笑)」
 振り返ってそう語るのは、指揮者・栁澤寿男。以前もYEOに登場し、その数奇なプロフィールと驚くことがいっぱいの活動内容を、フランクに語ってくれた。まだ見ていない人はぜひぜひ、アーカイブで2019年11月11日~15日の記事をご覧あれ。
 今週は、その栁澤寿男を再びクローズアップ。彼が2007年に設立したバルカン室内管弦楽団の、今年度の日本公演のしっちゃかめっちゃかなてんまつは、今の日本の、そして世界のコロナ事情をセキララに反映している。政治や経済、世界情勢がコロナによってぐるぐる変わり、同時に世の中の仕組みがコロナのあり方にまで影響していることが伺えて、
すごく興味深いのだ。
「戦争とか紛争で分断してしまった民族同士が再び共存して、共栄して、仲良く生きていくために、僕はバルカン室内管弦楽団を作ったんです。世界情勢が不安定な時期でもなんとか、その活動は続けてこられたんですが、2019年を最後に、初めてそれができなくなりました。コロナの影響です。戦争よりもコロナのほうが強敵だった、ということです。でもね、コロナのせいで何もかもできなくなるのって、悔しいじゃないですか」
 奇跡を呼ぶ指揮者は、闘う指揮者でもある。コロナと彼は昨年から今年にかけて、どのように闘ったのか。金曜日まで連日更新、年をまたいで、YEOをよろしく!

  • 出演 :栁澤寿男 やなぎさわ としお

    1971年生まれ、長野県出身。パリ・エコール・ノルマル音楽院オーケストラ指揮科に学ぶ。また指揮を佐渡裕、大野和士に師事。スイス・ヴェルビエ音楽祭指揮マスタークラスオーディションに合格し、名匠ジェイムズ・レヴァイン、クルト・マズアに師事。2000年東京国際音楽コンクール(指揮)第2位。以降、新日本フィル、日本フィル、東京フィル、東京都響、東京響、シティフィル、大阪フィル、京都市響、名古屋フィル、札幌響、仙台フィル、アンサンブル金沢をはじめ多くのオーケストラに客演。2005年から2007年マケドニア旧ユーゴスラヴィア国立歌劇場首席指揮者、2007年コソボフィルハーモニー交響楽団常任指揮者に就任(2009年5月首席指揮者に昇任)。2007年、バルカン半島の民族共栄を願ってバルカン室内管弦楽団を設立。同時にサラエボフィル、アルバニア放送響、セルビア放送響、プラハ響、サンクトペテルブルグ響などに客演し、旧ユーゴを中心に活動。現在、バルカン室内管弦楽団音楽監督、コソボフィルハーモニー交響楽団首席指揮者。

    オフィシャルHP /https://toshioyanagisawa.com/

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/