数十年前、フランスの哲学者ボーヴォワール女史はこう言った。「人は女に生まれるのではなく、女になるのだ」。これはつまりフェミニズムの奔りであり、ジェンダー論の基礎。いわゆる〝女性らしさ〟なんて幻想にすぎなくて、女は社会が要請する〝女性らしさ〟を感知して習得し、女性を演じているに過ぎないと、そういう意味だ。

 今週のYEOのヒロイン、田中道子と話していて、その言葉を思い出した。彼女は今年3月〈女優宣言〉をして、半年後の10月に始まる人気ドラマ『ドクターX~外科医・大門未知子~』第4シリーズにレギュラーとして出演が決まった。女優街道まっしぐら、イケイケな気分かと思ってインタビューしてみたら、そうでもない。一人前の女優になるためにどうしたらいいのか、マジメに考え、悩み、傷つき、苦しみながら楽しんでいる。女になるのと同様、女優になるのも、簡単じゃない。

 田中道子が演じるのは、ドクターXこと大門未知子と敵対する病院長・蛭間の秘書。表向きは蛭間に尽くす美人秘書だけれど、裏では蛭間を手玉に取ろうとする魔性の女だ。当然撮影では、蛭間を演じる大御所俳優・西田敏行と2ショットのシーンが続く。

「顔あわせのときには心臓が口から飛び出すんじゃないかと思うくらい、緊張しました。でも西田さんは『3ヶ月間、楽しんでやりましょう』って言って下さった。それを伺って一気に肩の力が抜けました。うまくやらなきゃ、足を引っ張らないようにしなきゃと勝手にプレッシャーを感じていたんですけど、ああ良かった、と(笑)。でもその後、いざ本番で演技するとなったらまた緊張してしまって。恐る恐る現場に行ったら、西田さんが、誰よりも一番楽しんで演技なさっているのがわかったんです。おかげで、私もお芝居にのめり込むことができました」

 新人女優にしては、度胸が良い。27歳、いったいどんな経験が、今の彼女を作ってきたのか。彼女はこれからどんな女優になっていくのか。金曜日までハギニワ氏撮り下ろしの写真とともに、追っていきます。

  • 出演:田中道子(たなか みちこ)

    1989年8月24日生まれ。静岡県出身。「ミス・ワールド2013」日本代表。モデルとして活動の後、2016年3月に女優宣言。10月スタートする『ドクターX~外科医・大門未知子~』第4シリーズ(テレビ朝日系、毎週木曜よる9時~)で西田敏行氏演じる東帝大学病院病院長・蛭間の秘書兼愛人・白水里果役を演じる。

    オフィシャルブログ http://ameblo.jp/michiko-tanaka-blog/

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/