ミュージカルというのは、歌の稽古に1カ月、その後、総合的な芝居の稽古に1カ月を費やす。そして公演が始まればロングランになることも多い。笹本玲奈さんは途切れることなくそういう日々を送り続けている。

「今年は夏休みが5日間あるんです。それでオーストラリアに行こうと思っています。初めて1人で行った海外はウィーンだったんですが、冬だったんでひたすら寒いしひたすらヒマだし、町は褐色だし。ちょっとトラウマになりそうだったけど、1人で行った、ということはひとつの転機でした」

 それが自分自身の内面の転機だったとしたら、外面の転機は『レ・ミゼラブル』の舞台に立った頃に最初に訪れた。

「『ピーターパン』の頃は子ども扱いされていたと思います。『レミゼ』に出たとき、初めて女優として扱ってもらえました。学ぶことが多すぎて、共演していただく皆さんにも見てくださる皆さんにもごめんなさい、といまだに思います。いろんなタイプの役をやりたいですね。今までもお嬢さんの役も貧乏な娘の役も、ブラとパンツだけになる役もやりましたけど、もっともっと、いろんな役を。どれが本当かわからない、普段の笹本がまったく見えないくらいの役者になりたいです」

 この日の撮影ではずいぶんヘン顔などもしてくれた。玲奈さん、力尽きた様子。

「カメラを向けられてここまでくだけられたのは人生初です」

「ヘン顔ができるのは本物の役者だけだよ」

 萩庭桂太はうれしそうだった。そして調子に乗った。

「なんか歌ってよ」。

「ここでですか!?」

 玲奈さんは一瞬躊躇したが、ソファーに腰掛けたままで歌ってくれた。『レ・ミゼラブル』から「On my own」。この人、泣くんじゃないかというほど感情が声にのっている。胸の奥に言葉が届く歌だった。

 歌が台詞になっていた。これぞミュージカルの歌。全身全霊で震えて歌う彼女を、たくさんの人に、舞台で見てもらいたい。

  • 出演:笹本玲奈

    1985年千葉県生まれ。O型、ふたご座。バレエ、タップ、ジャズとダンスは大好き。98年史上最年少でミュージカル『ピーターパン』主演デビュー。07年に菊田一夫演劇賞、08年に第15回読売演劇大賞優秀女優賞、および杉村春子賞受賞。現在、全国11都市で公演の『ミス・サイゴン』にキム役で出演中。
    http://fc.renasasamoto.jp/

  • 取材・文:森 綾

    1964年8月21日大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1200人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には女性の生き方についてのノンフィクションが多い。『キティの涙』(集英社)の台湾版は『KITTY的眼涙』(布克文化)の書名で現在ベストセラー中。
    http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太