フィンランドで佐藤は、新しいジャンルの仕事にも挑戦した。ホスピタル・アート、病院の中に飾る絵を提供したのだ。
 ヨーロッパ、特に北欧では、日常生活の中のアートをとても大事にする。公共施設が建設されるとき、予算の何%をアートに使うべし、という条例があるくらいだ。とりわけ病院という場所は、心も身体も弱っている人が行く場所なので、質の高い、心に優しい、誰が見ても美しい作品が要求される。白樺の絵で高く評価された佐藤は、その中でも重要な3つの部署を任された。
「産婦人科には、鳥の巣の絵を描きました。卵が割れてヒヨコが生まれて、という一連のストーリーです。すごく好評で、良かったです。精神科には木の枝先を。精神を病んでいる人が見るので、光が強すぎてもいけないし、暗くてもいけないし。岩絵の具の緑色を足して、優しく仕上げました。内科には、白樺の絵をリクエストされたので、はい」
 うらやましい。日本の病院も、もうちょっと考えてくれればいいのに。
 ま、それはともかく。ということは、フィンランド生活はまだまだ続きそう、ですか?
「そうですね。今ようやく、自分の作品や名前を徐々に覚えてもらえて、基盤ができているところなので。もう少しやっていければ、と思います」
 でもフィンランドって、寒い、ですよね。
「寒いです。僕がいる中央フィンランドはヘルシンキから北に300キロ、冬場はマイナス10度とか20度は当たり前で、本当に寒いとマイナス30度になります。手袋は必須で、濡れた手で鉄製品に触ると、張り付いてしまう。僕は中古の車に乗っているんですけど、車も凍り付きます。クラッチを踏むと戻ってこなくなるし、エンジンがかからなくなることもあるし。あたたかいのは7月と8月、くらいかな(笑)」