田中シェンは昨年、事務所を変わった。
「もっと広く芸術に関わっていきたいから。具体的には、お芝居の勉強を始めて、演技の仕事を広げていきたいと思ったからです。でもね、実は演技が今までで一番、苦手なんですよ(笑)。これまで何をやるにもそれほど苦労したことなかったのに、演技にはちょっと、つまづいてしまいました」
 苦手、だけど、やってみたい? つまづくって、どういうこと?
「演じるときって、自分と向き合わないとできないんです。自分のこれまでを振り返って、どんな時にどう感じて、何を思ったかを掘り下げる必要があるんですね。で、いざ自分の過去と向き合ってみたら、つらくてつらくて(笑)」
 笑いながら、またもや目には涙が。
「私、自分のことが嫌いなんです。みんなと違うから。私は両親が中国人で、日本に帰化したんです。だからこんなに日本のことが好きだし、日本人になったのに、でもやっぱり認めてもらえなかった。そのことですごくいじめられることもありました。みんなと一緒になりたかったけど、それはできなかった」
 日本と中国と米国と。いろんな要素がシェンの中に入り込んでカタマリとなり、アイデンティティー・クライシスに。だけどモデルをしながら演技を求めらるようになり、演技を勉強し始めたとき、それに対する答が見つかったという。
「演技って、リハビリみたいな感じです。忘れて生きてきた昔の嫌なことと向き合って、掘り下げて、それを肯定することで演じることができるようになる。過去の自分と和解して、演技の幅が広がるんです。過去にいろいろあったことは、演技をする上では力になる、武器になります。私にはコンプレックスとか苦手なことがいっぱいあって、それを全部克服したら、演技の幅が広がると同時に、自分のことが好きになれるかもしれない。人生の階段において、なぜこれが苦手なのか、考える時間になりました。演技は今のところ苦手、だけど、やればやるほど、面白い。人生を通じて、ライフワークとして続けて行きたいって思います」