田中シェンには、イラストレーターとしてのニーズもある。もともと絵を描くのが得意だっただけあって、おシャレでスタイリッシュでポップな彼女の絵は、今までいくつもの媒体に採用されてきた。
「なりゆきです。実は、本当は、絵を仕事にするのには抵抗があったんです。絵を描くことは、私に取って、唯一の逃げ場だったから」
 そう言いながら、その目に涙があふれてきた。するとシェンはペシペシとほっぺたを叩いて、〝戻ってこーい〟と自分にカツを入れ、こう続ける。
「すごい引っ込み思案な子だったので、人と話すのが苦手な子だったので、小さい頃から毎日絵を描いていました。絵を描くことは日記みたいな作業で、絵はその日その時の私自身であり、分身でもあるんです。だから、絵を褒めてもらえるのはすごくうれしいことなんですけど、同時にその絵を描くという作業をビジネスにしてしまうのは、どこかちょっと、無理があって。それに販売促進の仕事をしていたから、クライアントのニーズはよくわかるんですよ。わかるからどんどんそれに気を使って、迎合してしまう。ハッピーで明るいだけの絵を求められると、嘘を描いているような気がしてきて。1枚や2枚ならなんとかなるけど、それがご飯の素になってしまうのは・・・・」
 でも今は、そんな状況からは脱却できたみたい。
「最近は、モデル+イラスト+プロデューサーみたいな感じで、全部を任せてもらえるようになったんです。そうなるとカメラマンやヘアメイクも自分で決められるし、プレゼンテーション全体を提案できる。何が必要なのか、自分でわかるので、イラストを描くのも、楽しい作業になりました。出来上がりの絵も、無理して明るいものではなくて、等身大の私に近づいてきたような気がします」