イタリア語の〈musiche di〉に憧れるのには、理由がある。
「僕はエンニオ・モリコーネが好きで音楽業界にいるようなものだから。モリコーネが好きだから、サントラやってる人間なんです。サントラを目指した入り口は、彼が作曲した『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988年)の音楽なんですよ」
 わかる、わかります。あれ、いい映画でしたよね!
「いや、映画自体はそれほどじゃないんだけど(笑)。そもそも『ニュー・シネマ・パラダイス』という映画、知らなかったんです。ある人が〝これいいよ〟って渡してくれたCDが『ニュー・シネマ・パラダイス』のサントラ盤だった。それを、雑誌読みながら何気なく聴き始めたら、気が付いたら泣いていたんです。感動して、涙が止まらなくなった。そして〝あ、俺、こういう音楽やろう〟と思ったんです。音だけで、人の心をつかむ。映画見てない、ドラマ見てないけど、このアルバムすごいんだよねって言ってもらえるような、サントラ作家になろうと思ったんです。傲慢な言い方すれば、『音楽の勝ち!』みたいな(笑)」
たしかに、映画やドラマは映像と音楽、混然一体となって押し寄せてくるから感動するけれど、どっちがどっち? と言われても。
「よく言われるんです。『吉俣さんの音楽を聴いてると、景色が浮かぶ』って。『吉俣さんの音楽を聴きながら街を歩くと、景色が変わる』って言ってくれる人もいる。それ、すごく嬉しいんです。ああ、良かった、と思う。もちろん僕はドラマや映画などの、その映像に向けて作っていますけど、実はもっと普遍的なものにしようと思っている。その曲だけ単独で聴いても景色が浮かぶように音楽を作りたいと思っている」
 その、サントラへ導いてくれたモリコーネについては、後日譚がある。7~8年前、彼のコンサートに行った時のこと。
「前半では彼の作曲した映画音楽を次々と演奏して、感動したんです。で、後半何をやるのかと思ったら、延々現代音楽をやるんです。メロディのない、意味不明な、ガシャーン! ジョワウィンウィン、みたいな(笑)。モリコーネは、あのエモーショナルで哀切なメロディと現代音楽、両方やりたい人だったんですね」
 ううう、作曲家って、奥が深い。

  • 出演 :吉俣良  よしまた りょう

    作曲家・編曲家・音楽プロデューサー。1959年鹿児島県生まれ。横浜市立大学在学中より本格的にプロとして音楽活動をスタート。84年から92年までロックバンド『リボルバー』のキーボードを担当。その後レコーディングミュージシャン、アレンジャーとしてさまざまなジャンルの音楽を手がけた。97年から数多くの民放ドラマのサウンドトラックを担当、『空から降る一億の星』(2002年)『Dr.コトー診療所』(2003年)『風のガーデン』(2008年)など人気ドラマの原動力となる一方、NHK朝の連続ドラマ『こころ』(2003年)の音楽を担当した。また『冷静と情熱のあいだ』(2001年)『バッテリー』(2007年)『四月は君の嘘』(2016年)『あのコの、トリコ。』(2018年)などの映画音楽も手がけている。とりわけNHK大河ドラマ『篤姫』(2008年)は評価が高く、オリジナルサウンドトラックとして異例のヒットを記録。2年後の2011年再び大河ドラマ『江~姫たちの戦国~』に登板、好評を博した。さらに近年はアーティストのアレンジを担当するなど編曲家としても活動するほか、ソローアーティストとしての活躍も期待されている。

  • オフィシャルHP・http://www.yoshimataryo.com/

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/