「中国中央民族楽団」に所属したジャーさんはソリストとして活動し、10年後には首席奏者にまでなっていた。ちょうどその頃、鄧小平の改革開放路線により、海外に出ることが許されるようになる。彼はすぐに、その安定した地位を捨て、日本に行くことを決めた。
「たしかにすごく安定していました。でも世界はもっと広い、世界に出たいという思いがあったんです」
 なぜ行き先は、日本だったのだろう?
「よく考えてみると、日本が好きだったのかな(笑)。北京で初めて買った冷蔵庫は日本のサンヨーだったし、ステレオは日立でした。日本の映画も入ってきていて、高倉健さんの映画『君よ憤怒の河を渡れ』は大ヒットしていました。中国人の女性は皆高倉健さんに恋をしていましたよ(笑)。その後は『赤い~』シリーズのドラマですね。三浦友和さんと山口百恵さん、三浦さんが着ていた白いタートルネックのセーターを、みんな真似して着ていました。だから日本に来たとき、何の違和感も感じませんでした」
 とはいえ、日本語はまったく話せなかったというジャーさん。来日直後は語学学校に通い、アルバイトに明け暮れる毎日。皿洗い、町工場、パチンコ屋、倉庫で働き、暮らしていたという。
 新しい扉が開いたのは、およそ1年後。作曲家・服部克久氏がレコーディングのために二胡奏者を探していて、たまたまジャーさんが友人の紹介で出向いた。
「『風の子守歌』という曲を演奏して、20分くらいで収録は終わったのですが、すぐに服部先生から、次のオファーをいただきました。青山劇場のコンサートに、ゲストとして来てくれ、と。仕事が広がったのはそれから、ですね。先生のコンサートがあるたびに声をかけていただき、全国ツアーや海外公演にも参加しました。」
 心強いサポーターもいた。亀岡紀子さん(写真 右)もそのひとり。亀岡さんは中国音楽、中国茶のオーソリティ。中国語の翻訳、通訳もこなす中国通だ。亀岡さんはこう言う。
「はじめは二胡の先生と生徒だったんです。私はしばらく北京で暮らしていて、中国にいるとき皆さんからすごく良くしていただいた。だから日本に帰ったら、中国人には親切にしよう、できることは手伝おうと思っていたんです。1993年最初のリサイタルを開きましたが、コンサートを一から作り上げるなんてやったことなかったけれど、ジャーさんの音を皆に知って欲しいと思い、試行錯誤を経て、二人で周りの人たちにチケットを買ってもらって、満席になりました。私にとっても30周年かな?」

  • 出演 :ジャー・パンファン JIA PENGFANG

    中国黒竜江省生まれ。18歳でプロの演奏家を目指して北京へ。中国国内屈指の楽団「中国中央民族楽団」に入団し、ソリストとして10年間、第一線で活躍。1988年、二胡の新たな可能性を求めて来日。作曲家・服部克久氏との出会いが転機となり、日本での音楽活動の場を広げる。コンサート活動のほか、多ジャンルのミュージシャンとの共演やアルバム制作、映画(「LOVERS」)、CM音楽(JR東海・富士ゼロックスなど)、テレビ(NHK「漢詩紀行」「故宮」の音楽、「トップランナー」出演、日経CNBC番組テーマ曲)などでも活躍。また海外公演(アメリカ、イタリア、韓国、台湾他)も積極的に行っており、2010年は故郷中国で初の凱旋公演を行い、中国でも注目されている。これまで発売したオリジナルアルバムは20枚を超え、世界各国で発表され海外のファンも多い。2018年来日活動30周年を迎えた。

    オフィシャルサイトhttp://jia-pengfang.com/news/index.html

  • 【公演予定】
    7月8日京都、7月28日静岡、8月26日富山、9月24日静岡、10月12日東京

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/