早稲田のビジネススクールで学んだのは、音楽をちゃんとした仕事として成立させるためのアート・マネジメント。しかし1年間学んだ後、2年目に突入することはできなかった。2011年、東日本大震災の影響だった。
「夜はジャズライブハウスの仕事とか演奏活動もしていたのですが、それも一時期自粛の嵐で、どんどんなくなりました。すごい不安で、どうしていいかわからなかった。そのとき、ビジネススクールの先生が精神的にいろいろ助けてくれたんです。心理学が専門の方なんですけど、〝いろいろ不安かもしれないけど、受け入れるしかない。地面は動くものだ、くらいに思っておけ〟とか(笑)。その人からの依頼で、『ふんばろう東日本支援プロジェクト』に参加して、ボランティア活動を始めました」
月に3回は東北に向かった。ツィッターを活用し、ヒッチハイクで被災地に通ったこともある。
「印象的だったのが、津波で全部流された街の中に、1本だけ突き刺さるように残っていたエレキベースです。同時に、楽器の大切さもこの活動を通じて実感しました。子ども達が楽器を練習して、明日はもっと上手になろうと思うと、それだけで前向きな空気が生まれるんです。演奏活動も喜んでもらいました。コーヒーを淹れる道具を持って行って移動ジャズ喫茶を開いたり、櫓の上にコントラバスを運び上げて演奏したこともあります」
 この活動を通じて程嶋が実感したのは、〝音楽をやっていて良かった!〟ということ。そしてこのときの経験が、その後の彼女の人生観を大きく変えた。
「それまでは、自分が何かすることによって、相手から何かを得るという考え方がベースにあったんです。でも利益を求めず、誰かに何かをしてあげることが連鎖すれば、世の中はもっとハッピーになる。そのハッピーが繋がっていく。ギブ&テイクじゃなくて、行為や善意を次の人にどんどんパスしていこうという考え方です。私が尊敬していて、この活動を一緒に支えてくれたピアニストから学んだもので、大元は〝贈与の経済学〟とか言うんですけど」
 それを実践していくうちに、ミュージシャン同士の関わりが密になっていった。今では東京だけでなく、日本各地のミュージシャンが連絡しあい、助け合うことが当たり前のようにできるようになったという。
「誰かが困っていたら、助けてあげる。そのお礼はいらないから、次に誰か他の人が困っているときには助けてあげてね、と。それをやっていると、すごく世の中の風通しがよくなるような気がします」

  • 出演 :程嶋日奈子 ほどしま ひなこ

    1982年、神奈川県藤沢市生まれ。4歳からピアノを、15歳からクラシックコントラバスを学び、早稲田大学モダンジャズ研究会に加入。大学卒業後、外資系コンサルティングファームで3年働いた後、退職。ジャズベーシストとして活動を開始した。ジャズビッグバンド・コンボはもちろん、クラシックやポップスなどジャンルを問わず多くのシーンで活躍中。

    HP http://www.hinabass.com/

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/