子どもの頃から算盤(そろばん)が大好き。中学生の時点で就職するなら税理士か銀行員と決めていたという。大学の経済学部に進み、上京したところで、〈現役女子大生を有名カメラマン・篠山紀信が撮る〉という企画にスカウトされた。水着で撮影と言われたが、〝将来銀行に勤めるつもりなので、水着は無理!〟と断固拒否して、ワンピース姿で撮影したという。
 ところが当時は、就職氷河期。金融業界には嵐が吹き荒れ、銀行への就職はかなりの難関だった。すると折良く、そのグラビア写真をきっかけに、アナウンサーに興味ないですか?といくつかの事務所から声がかかり、最終的に人気フリー・キャスターが集まる事務所セント・フォースに所属。とはいえ、そこには全国から選りすぐられたアナウンサー&キャスター志望の女子が集結していた。その中で自分のアイデンティティーは何か? 江連が思いついたのはやっぱり、経済だった。
「20歳の時に30歳までに経済キャスターになる、と決めました。そのために今、なにをするべきか、考えたんです。ニュースを読めるようになるために、まずは現場に出ること。そして経済の知識を深めるために、大学院に進みました」
 22歳でTBSのニュース専門番組『ニュースバード』のキャスターに抜擢され、1日8時間ニュースを読みながら、大学院にも通った。その後現場のレポーターとして東証の株価中継を担当。しかし仕事と大学院の二足の草鞋は大変で、そこで体調を崩し、いったん休業。
 と、ここで、双六で言うところの『1回休む』状態に突入する。経済番組のお天気キャスターで復帰したが大学院を修了しても、その後経済キャスターになるチャンスには恵まれなかった。
「経済キャスターのオーディションが一度もなく、行き先がなくなってしまったんです。そこで1度放送の現場を離れることにしてKPMG税理士法人に就職しました。税理士の実務を積みたかったんです」
 すると半年後に、経済専門チャンネル、日経CNBCの夜のメインキャスターのオーディションが。当時江連は、27歳。30歳以上という条件だったが〝どうしても〟と頼んでオーディションを受け、見事歴代最年少で採用された。『30歳までに経済キャスターになる』という目標は、3年前倒しで実現したのだ。
 そこから江連は仕事に没頭した。投資家や経済のプロが食い入るように見る、リアルタイムの経済専門報道番組。そのメインに座るのは、並大抵のことではなかったはずだ。8年目に大きく体調を崩し、原因不明の手足の痛みと闘う日々が始まる。
一年間痛みを我慢しながら仕事をこなし、36歳で番組を降り、すべての仕事を中断。江連はロンドンに向かった。語学学校に通い、美術館に行き、ミュージカルを観、出会ったいろいろな人と語り合う。時間ができたらやってみたいと思っていたこと、すべてをやってみた。ニューヨーク、サンフランシスコにも足を伸ばし、語学とビジネスの勉強をしながら観光も楽しんだ。一年経つ頃には、身体の痛みも消えていた。
帰国してから、ラジオの経済番組でキャスターとして復帰。そこに突然、降って湧いたのが、社外取締役への誘いだったという。
「一時期マスコミから離れて就職していたKPMG税理士法人で、当時上司だった方からのお話でした。私はあのとき、いったん企業に就職することはいつか絶対に役にたつと思っていたけれど、世間は、江連はテレビから消えて挫折した、と思ったのかもしれない。でもその経験が無かったら今、たぶん社外取締役になっていないと思うんです。順風満帆に経済キャスターになれずに、1度キャリアチェンジしたことが、今に生きている。むしろスムーズに行くより、遠回りして良かったのかも知れません。人生に無駄なことって、やっぱりないんですね!」

  • 出演 :江連裕子 えづれ ゆうこ

    1977年生まれ。経済キャスター。東証一部上場 株式会社グルメ杵屋社外取締役。株式会社エスネットワークス社外取締役。TBSニュースバードキャスター、KPMG税理士法人を経て日経CNBCのメインキャスターを9年務める。現在は経済セミナーの司会やモデレーターとしても活躍。ラジオNIKKEI『ザ・マネー』(毎週月~金曜日15:10~16:00)の木曜日に出演中。

    セント・フォース プロフィールhttps://www.centforce.com/profile/t_profile/ezure.html

    オフィシャルブログ https://ameblo.jp/ezure-yuko

  • 撮影協力 ラジオNIKKEI

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    取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/