ヴィタリは18歳になるまで、音楽に興味がなかったという。ところが5月のある日、たまたまTVでホセ・カレーラス、プラシド・ドミンゴ、ダイアナ・ロスが出演しているクリスマス・コンサートを見た。
「そのとき初めて、人間の声はなんて素晴らしいんだろうと思ったんです。そして〝こんなふうに歌いたい!〟と思った。音楽のことを何も知らなかったので、すぐに近所のCDショップにでかけて、とりあえず上の方に並んでいるCDを全部買いました。家に帰って片っ端からそれを聴いてみたんです。それからというもの、大学から家に帰ると毎日、それを聴きながら、同じように歌ってみました。ソプラノ、メゾソプラノ、バス、バリトン、テノール。カルメンからワーグナーのローエングリンまで、トスカでもなんでも歌ってみました。プロになりたいなんて、なれるなんて思わなかったけど、とにかく歌いたいという気持ちが抑えられなくて」
 実はヴィタリには、有名なオペラ歌手の伯父(ヴィクトル・ユシュマノフ)がいる。毎日歌っている息子を見て、母親がアドバイスした。『伯父さんに聴いてもらってみたら?』
「伯父には、『君には歌の才能がない』と言われました(笑)。でも自分のために歌いたかったから、家で歌うのは止めませんでした。そして1年後にまた伯父に聴いてもらったら、今度はこう言われた。『また来たのか。世の中にひどい歌手はいっぱいいる。お前までそのひとりになる必要はないから、大学で音楽以外の、普通の勉強を続けなさい』」

  • 出演 :ヴィタリ・ユシュマノフ

    サンクトペテルブルグ生まれ。マリンスキー劇場の若い声楽家のためのアカデミーで学ぶ。ライプツィヒのメンデルスゾーン・バルトルディ音楽演劇大学を卒業。2013年の秋以来度々来日し、各地で公演。2015年春より日本に拠点を移した。「ドン・カルロ」のロドリーゴ、「ドン・ジョバンニ」の主役でオペラに出演。2017年3月びわ湖ホールオペラ「ラインの黄金」ドンナーを演じ、5月には「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」にも出演。日本トスティ歌曲コンクール2015第一位及び特別賞、第14回東京音楽コンクール声楽部門第二位、第52回日伊声楽コンコルソ第一位及び最優秀歌曲賞受賞。今年3月には日本の歌曲を集めたCDをレコーディングする予定。
    ホームページ http://vitalyyushmanov.com/

    〈公演情報〉
    『ヴィタリ ロシアの魂を歌う』
    関西公演2018年3月14日(水)14:00開演(13:30開場)びわ湖ホール
    東京公演2018年3月15日(木)14:00開演(13:30開場)オペラシティリサイタルホール
    問い合わせ:株式会社ジョイフル・アーツ http://joyfularts.co.jp/

  • 歌劇『イオランタ』(演奏会形式/日本語字幕付)にエブン=ハキア役で出演
    6月12日(火)18:30開演 サントリーホール

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  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/