ピアニスト、田崎悦子。クラシックのピアニストとして、知る人ぞ知る存在だ。ベートーヴェン、ブラームス、バッハなどを本格的に弾きこなす正統派でありながら、日本では異色の存在。私たちが持っている〝クラシックのピアニスト〟というイメージを軽々と超え、自由奔放でパッションに満ち、ストレート。そこがすごくチャーミングなのだ。
 もともとは、東京・吉祥寺に生まれ、幼い頃から自立精神旺盛で、『叱られるとオシメをしたままヨチヨチ家出をして親を困らせた』という伝説の持ち主。ピアノの才能を認められ、18歳のとき、アメリカのジュリアード音楽院に留学した。
時は1960年、日本人がニューヨークに留学など、ほとんどありえないことだった。
「留学1日目のことを、よく覚えています。ウェルカムパーティがあって、その家の奥様が大きなお盆にドリンクを持ってきてくださった。『何にする?』って。でも私の隣にいた日本人の女の子は、ウニャウニャ言うだけで何が欲しいか言わないの、遠慮して。するとその奥様は怒ってしまった。それを見て私は直感したの。〝ああ、この国でははっきり自分の望みを口にして良いんだ!〟って。その瞬間のこと、今も忘れません(笑)」
 その直感には、わけがある。実は田崎はそれまで生まれ育った日本で、ずっと違和感を感じていたのだ。
「変な子だって言われていました。私が言うこと、すること、すべてが良くないと言われていたの、親にも先生にも同級生たちにも。でもアメリカに行ったらその翌日から『君の言う通りだ』『なるほど、君はそう思うんだね、素晴らしい』って言われて、男の子たちにもすっごくモテた。日本では『ブス』って言われていたのにね(笑)。すごく居心地が良くて、私はまわりの思惑なんか気にしないでありのままの自分でいれば良かった。だから私は決めたんです、英語を一言ずつ覚えていくと共に、新しい自分、ありのままで居られる自分を作っていこうって」
 それから30年間に及ぶ海外生活で、田崎は何を見つけたのか。戻ってきた日本で、今度は何を探しているのか。今週のYEOは金曜日まで連日、田崎悦子の彩り豊かな人生をリポート。読み終わる頃にはきっと、彼女の奏でるショパンやリストが聴きたくなるはず!

  • 出演 :田崎悦子  たざき えつこ

    桐朋学園音楽科高校卒業後、フルブライト奨学金を得てニューヨーク・ジュリアード音楽院に留学。卒業後30年間国際的に演奏活動を続けた。1971年ヨーロッパデビュー。72年カーネギーホールデビュー。79年世界的指揮者ゲオルグ・ショルティに認められ、シカゴシンフォニーとデビュー。サヴァリッシュ、スラットキン、ブロムシュテット、小澤征爾など世界第一線の指揮者と協演。日本でもN響をはじめ各地のオーケストラと協演。2015年には『三大作曲家の遺言』シリーズでベートーヴェン、ブラームス、シューベルトを演奏、絶賛を浴び、NHKBSプレミアムにて複数回放送中。アメリカワシントン大学教授、東京音楽大学教授、桐朋学園大学及び同大大学院特任教授歴任。2002年よりピアノ合宿『Joy of Music』八ヶ岳と奈良、カワイ表参道「パウゼ」にてシリーズ『Joy of Chamber Music』『Joy of Music40+』総合ディレクター。
    ホームページ http://www.etsko.jp/

    田崎悦子・ピアノリサイタル『三大作曲家の愛と葛藤』
    前編5月26日(土)2:00開演 後編10月13日(土)2:00開演 
    東京文化会館小ホール 問い合わせ先 カメラータ・トウキョウ03-5790-5560

  • YEOからお知らせ:YEO専用アプリ

    このYEOサイトにダイレクトにアクセスするためのスマホ・タブレット用の無料アプリです。
    とてもサクサク作動して、今まで以上に見やすくなります。ダウンロードしてください。
    iOS版 iOS

    Android版 Android

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/