先日開催された「にっぽん!」がテーマのコンサート。そのパンフレットの表紙には、着物姿の通崎が微笑んでいる。斬新な色柄の、レトロな着物。彼女はアンティーク着物のコレクターとしても、有名なのだ。
集めるだけじゃなく、実際に袖を通して着物を愛でる。日常的に着物を着て生活していた時期もあったとか。着物を着て帽子をかぶり、自転車で颯爽と走る姿が話題になって、女性誌からの取材が殺到したことも。
「でもね、明治時代はみんな日常的に着物を着ていて、そこに新しい要素として帽子や自転車を取り入れて生活していたんです、当たり前のように。今は私が洋服の代わりに着物を着て、帽子をかぶり自転車に乗っているだけ。風景は同じです。100年経って、洋服と着物が逆転したんですね。でもそれを面白がって取材に来たのは東京の人が中心で、京都の人はお坊さんとかオバアサンが同じような格好してますから、そんなこと驚きませんよ(笑)」
 そもそも着物との出会いは?
「20代のとき、大正生まれの叔母の着物が箪笥の中から出てきたんです。叔母が10代の頃着ていた、昭和初期のものでした。それに合う帯や小物を集めているうちに、他の着物にも目がいって。600点ほどになりました」
 本人はさらっと言うけど、その集め方は尋常なものではなかった。気に入った着物を手に入れるため、なんと彼女は古物商の免許まで取ったのだ。
「古い着物を買うために、ではありません。勉強のためです。古着の取引は、専門業者の市で行われるんですが、その市に出入りするには鑑札が必要なんですよ。着物が出品されて、専門業者が競っていくんですが、どんな着物がどう評価されるのか、それを見るのはモノの価値を知ることになる。とても勉強になります」
 価値を知り、着物を見る目を養って、その挙げ句の600点なのだ。
「古着屋さんに育ててもらった部分があります。京都のお店はたしかに〝一見さんお断り〟みたいなところもありますけど、こちらが〝教えて下さい〟って飛びこめば、きちんと対応してくれる。私が最初に通った頃はまだ若くて何も知らなかったけれど、私の財布の中身も考えて、〈この子にわかるもの〉を勧めてくれました。だんだんこちらの技量があがってくれば次のもの、さらにモノがわかってきたら次のものと、大体10年くらいで考えているんじゃないでしょうか。人を育てるとか、ものを育むという文化が、京都にはあるのだと思います」

  • 出演 :通崎睦美 つうざき むつみ

    1967年京都市生まれ。5歳よりマリンバを始める。1992年京都市立芸術大学大学院音楽研究科修了。セルフプロデュースでマリンバの演奏活動を続けてきたが、
    2005年木琴の巨匠・平岡養一が初演した紙恭輔『木琴協奏曲』(1944)を平岡の木琴で演奏。その木琴と楽譜、マレットを譲り受けた。以後、木琴の新たな可能性を探って演奏活動を続けている。13年9月『木琴デイズ 平岡養一「天衣無縫の音楽人生」』を講談社から上梓。第24回吉田秀和賞、第36回サントリー学芸賞(社会・風俗部門)をダブル受賞した。アンティーク着物のコレクターとしても知られている。

    【コンサート情報】
    木琴×箏&アコーディオン 通崎睦美コンサート「今、甦る! 木琴デイズ」vol.8~アンコールⅠ~ 
    2017年10月26日①14時開演②19時開演 京都文化博物館別館ホール
    http://www.otonowa.co.jp/schedule/tsuuzaki

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  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/