『よわむし』という本は、〈あの日のこと〉という章から始まる。
 15歳の彼女が見知らぬ男に暴力をふるわれ、レイプされた日のことだ。実際に起こったこと、彼女がそのときに感じた絶望感、恐怖、怒り、哀しみが、生々しく記述されている。
 すべてが、そこから始まった。親にも友達にも誰にもそのことを言えず、日常生活を続けようとしても、そんなことできるはずがない。犯人への憎悪が増していくと同時に、自尊心はズタズタだ。自分はどうすればいいのか、自問自答がぐるぐるぐるぐる、自分の心を削り取っていく。単に体の話ではない。レイプは人間の尊厳にかかわる犯罪だ。
そこから始まったPTSD(心的外傷後ストレス障害)と、彼女は必死で闘ってきた。3年後、AV女優という選択をしたのも、描く絵が赤という色で塗りつぶされたのも、彼女にとっては闘いの一部。そして今、そのことを本の中で公表することで、彼女はその闘いに決着をつけようとしている。
「いつかは話そうと思っていました。インタビューで言うような内容ではないし、ちゃんと自分で、自分の意思をきちんと伝えながら公表しようと。もう大丈夫、と思って書き始めたんですけど、全然大丈夫じゃなくて、実は何日か寝込みました。でも今はすっきりしています。私にとって必要なことだったから、今このタイミングで書いたのだと思います」
 書いたのは、自分自身のためだけではない。
「自分自身がその最中、こういう本を読みたかったんです。同じような経験をした人が、どんなふうに考えて、どう生きているのか。どうやって大人になって、どんな日常生活を送っているのだろう? って、それが一番知りたかった。
もちろん私の例はかなり異色なものかもしれない。失敗もあったし、危険な行動ばかりだった。でも悪い例だって必要だし、ヒントになるはずです。私の経験をバツ例にしてくれてもいいから、参考資料として役に立ててもらえたら、と思います」
事件とか病気とかトラブルとか、乗り越える、立ち向かうための第一歩は、〈知ること〉なのだ。
「PTSDという言葉さえ当時私の周りには存在しなかったし、どんな症状が出るのか、どう対処すればいいのか、わからなかった。人間関係がうまくいかなくなったり、不眠、めまい、悪夢、幻覚とか、いろいろあって。そうなったときに自分だけにこんな症状が出るのか、自分だけ異常に神経質なのか、心が弱いせいなのか、そんな疑問や不安に誰も答えてくれない。知っていれば、もっと楽だったと思うんです。何もわからないのが一番つらかったから。だからこの本を書いたんです」

  • 出演 : 大塚咲 おおつか さき

    1984年生まれ。東京都出身。2004年よりAV女優として活動する一方、2006年からファッションブランドにイラストを提供、展覧会に参加するなど画家として活動を続けてきた。2011年より写真を撮り始め、写真家としても活動を開始。2012年セルフポートレート写真集『密賣NUDE』を発表している。2012年AV女優を引退した。
    HP https://www.otsukasaki.com/

     『よわむし』

    双葉社刊 2017年6月23日発売予定
    〈イベント情報〉
    大塚咲写真展「me」 6月30日(金)~7月9日(日) 13:00~19:00
    神保町画廊 〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1-41-7安野ビル1階 
     http://jinbochogarou.com/

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  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/