永井秀樹は〈ヴェルディ川崎(現:東京ヴェルディ)〉を振り出しに、数多くのクラブでプレイしてきた。
「自分を1番評価してくれるところに行くのがプロとして当然、自分が1番活躍できる、期待されている環境に行くべきだと思っていましたから。新しいクラブに行くと新しい発見、いろいろな出会いもあるので、そこはすごく楽しかった」
 中でも1番印象に残っているのは?
「沖縄でしょうね。今の自分の、人生の師匠と出逢うことができたんですから」
 きっかけは、知る人ぞ知る隠れ家的名店で見かけた、器だった。
もともと永井は陶芸が大好きで、ヴェルディ川崎に入団した頃、熱海の山奥にある窯まで足を運び、自分で作陶したこともあったとか。そんな彼の目に、その店で使われていた器は実に新鮮に映ったという。
「強烈でした。初恋どころじゃない、惚れ込んだんです。店の人に聞いたら、沖縄在住の大嶺實清さんという方の作品と教えてもらって、矢も楯もたまらず、その足で大嶺先生のアトリエを訪ねました。展示室みたいなところに通されて、すると先生が出てきて〝君はずいぶん色が黒いねえ〟って。もちろんサッカーのことも、僕のこともご存じなかった。でもお茶を淹れてくれて、そのまま3時間くらい、お話しました。僕はとにかく、これだけは言いたくて。〝僕はサッカーを芸術だと思っています。サッカーで人々を感動させることができると信じています。先生の作品は、僕を含めて人々の心を打ち、感動させることができる、すごいと思います〟と」
 以来、暇さえあれば大嶺實淸さんのアトリエを訪れ、さまざまな話をした。
「先生のアトリエは、僕の聖地になりました。結局沖縄には5年いたのですが、正直、楽しいことばかりではなかった。でも東京に戻るとき、先生に挨拶に行ったら、最後にこう言ってくれた。〝沖縄のために、本当にありがとう〟って。その先生のひと言で、沖縄で経験した嫌なことはすべて吹っ切れました」
〝大きな器の人間になりなさい〟と言って渡された大嶺氏の作品は、今も永井の宝物。遠征先には大嶺氏作の湯飲みを持参して、愛用してきた。
「将来、茶室を持つのが夢なんです。そこでサッカーの教え子とか仲間にお茶を点てて、静かな時間を過ごしたい。いえ、茶道を習ったことはありませんけど、大嶺先生はいつも我流でお茶を点てて下さっていたから、僕も自分の好きなようにお茶を楽しみたくて。最高だと思うんですよね!」

  • 出演: 永井秀樹 ながい ひでき 

    1971年生まれ。大分県出身。1992年ヴェルディ川崎(現:東京ヴェルディ)に入団。1995年から福岡ブルックス(現:アビスパ福岡)に移籍後、J1、J2、JFLの各クラブで活躍してきた。その間、各クラブでナビスコカップ、天皇杯、Jリーグのステージ優勝などを経験している。2014年東京ヴェルディに7年ぶり5度目の復帰を果たし、3シーズンを過ごした後、引退を発表。25年間のプロ生活にピリオドを打った。今季より東京ヴェルディユース監督に就任。  

    撮影協力 東京ヴェルディ http://www.verdy.co.jp/index.html

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  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/