こんなハープもあるんですよ、と、平尾が見せてくれたのは、高さ60センチくらいの可愛いハープ。

「サウルハープといいます。弦は25本だけですけど、華やかな音色ですし、これを使って超絶技巧の曲を弾くこともできます。グランドハープには及びませんけれど、いろんな可能性を秘めた楽器だと思います」

 平尾はこのサウルハープを膝に乗せ、コンサートでも演奏する。デビューCDのジャケ写も、このサウルハープと一緒の写真を使っていた。

「ハープをもっと、身近に感じてほしいからです。ハープといえば、もちろん1番最初に思い浮かぶのはグランドハープですけど、大きいし高価ですし、ちょっと敷居が高いですよね。でもお客様の中には、自分でハープをやってみたいと思う方がいるかもしれない。最近は、昔ピアノをやっていたけど、違う楽器でまた音楽を始めたいという方が、ハープを習い始めるケースが多いんです。そういう方に、ああ、こういうハープもあるんだなって、知っていただきたいんですよ。ハープのことを広めて、興味を持ってもらうのも自分の仕事の一貫だと思うので、演奏会ではいつも何曲かはサウルハープを弾いて、聴いていただいています」

 それにしても、この大きなグランドハープとサウルハープ、いったいどうやって運ぶんだろう? コンサート終了後、見ていたら、ドレスからふだん着に着替えた平尾が、楽屋から飛び出してきた。鼻歌交じりにカバーを取りだし、グランドハープをさくさくと包んでいく。専用の台車を持ってきて、高さ180センチ、重さ40キロのハープをよいしょっと持ち上げて、ガラガラガラ・・・・。マネージャーの手を借りつつも、なんと自力で運搬するのだ。運んだ先は、愛用の小型車。グランドハープを横にして入れ、さらにサウルハープを積み込んで、撤収完了。どんなに優雅なハーピストでも、やっぱミュージシャンはタフじゃないと、ね!

  • 出演:平尾祐紀子(ひらお ゆきこ)

    金沢市出身。愛知県立芸術大学音楽学部ハープ専攻を経て、同大学音楽研究科修士課程修了。オランダ、マーストリヒト音楽院修士課程修了。第8回北陸新人登竜門コンサートにて、オーケストラ・アンサンブル金沢と共演。国内のコンクールにも多数入賞。帰国後、金沢と名古屋でリサイタルを開催。さまざまなオーケストラとソリストとして共演する一方、ソロや室内楽、オーケストラ客演、現代作品の初演、後進の指導など幅広く活躍している。2016年11月アルバム『華音』をリリースした。

    デビューアルバム『華音 KANON』

    グランドハープとサウルハープ、2種類のハープで演奏した16曲を収録。パッヘルベル『カノン』、ドビュッシー『亜麻色の髪の乙女』、いずみたく『見上げてごらん夜の星を』、アイルランド民謡『サリー・ガーデン』など幅広いジャンルの曲が楽しめる。

    オフィシャルサイト http://harp.yukikohirao.com/
    撮影協力 南麻布セントレホール

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/