夫の仕事の関係で、日本を離れてから世界中あちらこちらで暮らしたというニコレッタ。結局11年前、日本に戻ってきたという。ふたりの子どもを育てながら、なにか趣味を持とうと考えたとき、家の近所にあったのが草月会館。そこで生け花を習い始めた。
 週に1回の生け花教室が楽しくて、初心者コースを終えてからも次から次へ。いつの間にか週に3回通うようになり、7~8年後には師範の資格をゲット。

「大学で言語学を学んだくらいですから、私は人とコミュニケーションを取るのが好きなのだと思います。でも歌うのは苦手だし、絵もそんなに上手じゃない。お花で人になにか伝えたい、コミュニケーションを取りたいというところから始まっているんです」

 会社を立ちあげ、プロになってからも、その思いは変わらない。
 東京・日比谷にあるザ・ペニンシュラホテルで仕事をすることになったときのこと。まずはお手並み拝見と、トライアルで花をいけることになった。

「一流ホテルでは、たいていあちこちに花が飾られていますよね。でもふつうの人はそこに花があるのは当たり前だと思って、気にも留めない。お花に興味のある人以外はスルーしてしまうし、いつもと違う何かがないと、気付いてもらえない。大事なのは〝ワオ!〟と思ってもらうことなんです。そう思って花をいけました。すると次の日すぐに、お客さんから反応がありました。『お花が変わったのね! 素敵だわ』って。おかげさまで間もなく仕事が決まりました(笑)」

 それから1年間、毎週毎週、最上階にあるレストラン『ピーター』でセンターピースに花をいけつづけた。季節の花を、レストランのメニューと呼応するような色彩とデザインで飾るためにデッサンを何枚も描き、花をいけつづけたのだ。大変だったけれど、すごく勉強になったとか。さらにその花に彼女は、小さな心遣いも添えていた。

「その花の下に、小さなカードを置いておきました。使っている花の名前を、手書きで書いたものです。私の花が、ゲストにとって良い思い出のひとつになればいいな、と思ったんです」

  • 出演:ニコレッタ・オプリシャン Nicoleta Oprisan

     ルーマニア・ブカレスト大学にて言語学の学士号を取得し、イギリス・レスター大学にてマスコミュニケーション学の修士号を取得。さらに日本の学習院大学で日本語を学んだ。11年前から家族とともに日本に在住。数年前から草月流いけばなを学び、師範となる。2年前、株式会社5Sensesを設立。生け花だけでなく、人々の五感を刺激するアイテムを次々と生みだしている。
    オフィシャルサイト http://5senses.co/ja/welcome.html

    Facebook https://www.facebook.com/5-Senses-811766138931083/

  • 取材/文:岡本麻佑

    国立千葉大学哲学科卒。在学中からモデルとして活動した後、フリーライターに転身。以来30年、女性誌、一般誌、新聞などで執筆。俳優、タレント、アイドル、ミュージシャン、アーティスト、文化人から政治家まで、幅広いジャンルの人物インタビューを書いてきた。主な寄稿先は『éclat』『marisol』『LEE』『SPUR』『MORE』『大人の休日倶楽部』など。新書、単行本なども執筆。

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://keitahaginiwa.com/