今回のコンサートの仕掛け人、桑山哲也さんのアコーディオンには鍵盤がない。その代りにずらっと並んでいるのが、ぴかぴか光るボタンだ。このボタン鍵盤式・ベルギー配列のアコーディオンを演奏するのは現在、日本で彼ひとり。

「フランスの楽曲ではボタン式アコーディオンが圧倒的に多く使われるので、シャンソンを弾くには一番適した楽器なんです。ボタンのほうが理に適っている、というのかな」

 ほらね、と弾いてくれた音はまさしくシャンソン。哀切で情感たっぷりで、それでいて軽やかに人生を笑い飛ばすウィットに満ちている。東京・青山のいちょう並木が、あっという間にパリのシャンゼリゼに見えてくるほど。彼の伴奏でシャンソンを歌ったら、それはもう百人力だ。

「だからシャンソンのコンサートで知り合った若い歌手たちに〝自分のコンサートをやるときは、ギャラなんかいいから僕を呼びなよ〟って言うんですけど、みんな遠慮してなかなか声をかけてこない。だったらこっちで企画しようかっていうのが、今回の始まりです(笑)。良いミュージシャンで、良いアレンジの譜面で、ちゃんとしたステージで歌わせてあげたい。それを聴いて下さったらお客さんも、新しいシャンソンの魅力をわかってくれると思います」

 ちなみに衣装提供は、なんとあの、ヨウジヤマモト。

「シャンソンは〝3分間のドラマ〟ってよく言われます。1曲1曲にドラマがあって、歌い手はヒロインを演じているように歌う。歌が主役ですから、衣装に余計な装飾はいらない、歌詞とメロディで訴えかければ、それでいいと僕は思うんです。ストイックでシンプルだけど主張のあるヨウジさんの服でシャンソンを歌うって、日本では画期的なことじゃないかな(笑)」

 ゲストの田代万里生さんが、このアコーディオンと3人の歌姫の中でどんな歌を聴かせてくれるのか、それもこのコンサートのお楽しみのひとつ。
ひとりで行く? それとも誰かを誘ってみる?

  • 出演:桑山哲也(くわやま てつや)

    1972年札幌生まれ。10代から札幌でプロ活動をスタート。1996年に渡仏し、シャルトル・アコーディオン・フェスティバルに最年少で出演した。2000年から本格的にソロ活動を開始し、これまでに8枚のアルバムをリリース。近年は夫人で女優の藤田朋子と共にバラエティ番組にも出演している。

    桑山哲也オフィシャル・ホームページ http://kuwayamatetsuya.net/

    桑山哲也のビストロ”ヌーベル・シャンソン” インフォメーション http://www.horipro.co.jp/kuwayamatetsuya/

    衣装協力:Yohji Yamamoto Inc.

    撮影協力:Royal Garden Cafe 青山 http://www.royal-gardencafe.com/shop_aoyama.html

  • 取材/文:岡本麻佑

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/