たとえ前職が華々しい職業だったとしても、いろいろあって別の職業に就く人は多いだろう。会社にだって就職もするだろう。しかしながら独立し起業をすることは並大抵のことではない。

「芸能界時代から悩んだり節目が来ると、事あるごとに萩庭さん(萩庭桂太のこと)にいろいろ愚痴(笑)と相談事を聞いてもらっていました。その当時“なんでもない自分”に何ができるのか、何がしたいのかよくわからない、っていう話をして。そうしたら『何でもいいから自分でやってみなさい』って言われたんですよ。『例えば、請求書を書く、納品書を書く、領収証を書く、そういうことを自分でやったことないでしょ? そういうことが一人で出来るようにならないとダメ。まずはやってみればいい』って言われたんですよ」

 そしていよいよ独立。自分のお店を持つことになった。

「何とか起業しました。雇われて働いている時と、自分が経営者として働くのは雲泥の差があるのね。心身共にこんなに大変なんだ、と思っている最中です。
 あの時、萩庭さんに言われたことが身にしみて分かりました。世の経営者の方々はなんて我慢強いんだろうって。雇ってもらっている時は補償とか責任を取ってくれる上司がいる中で働けるので、ある意味安心できました。でも私はどこか自由人。人を頼りたいくせに自分でルールを作りたいので組織の中の煩わしさみたいなものが耐えられないのね。とはいっても至って基本を大切にしてる常識人のつもりですが(笑)。だから大変でも自分で経営をするという道を選んでるのかな」

 かつてジョブズとウォズニアックはアップルを起業する時にこう話し合ったそうだ。「たとえ失敗したとしても僕たちは会社を作ったんだって胸を張って言えるじゃないか」と。この起業家精神こそが素晴らしい。彼女もしかりだ。ただ容易ではない。会社員として生きるのとはそれこそ雲泥の差、いばらの道が待っている。

「自分が雇われている時はわかりませんでした。若い頃、必死に働いてこんなに忙しいのに、なんでこんなに給料が安いのか、ぐらいにしか思っていなかったんです。でも会社は一つの商品を売り、運営していくために、無駄を省きながら必要な経費を投資しているわけですよね。会社の経費だからって何でもかんでも領収証で落とそうなんて甘い! こんなに働いているんだから、っていうのも甘い! 会社に属している以上は、ちゃんと会社の利益を得てから言いなさい。ってことですよね。そういうことを私にわからせるために神様は今の仕事をさせてくれたんだと思います(笑)」

  • 出演:立河宜子(たちかわ のりこ)

    エステティシャン、化粧品販売、エステ・サロン経営。株式会社BASIC BEAUTY代表。一般社団法人化粧品検定1級。一般社団法人コスメコンシェルジュ。介護職員初任者研修。一般社団法人日本抗加齢医学会会員。
    BASIC BEAUTYオフィシャル・ホームページ http://www.basicbeauty.jp
    BASIC BEAUTYフェイスブック www.facebook.com/bb.basicbeauty

  • 取材/文:横田一郎

  • 撮影:萩庭桂太

    1966年東京生まれ。東京写真専門学校卒業後、フリーランス・カメラマンとして活動開始。
    雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。
    ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。
    「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。
    雑誌は週刊文春など週刊誌のグラビア撮影を始め、幅広い世代の女性ファッション誌の表紙を撮影中。
    http://www.haginiwa.com/