人は女に生まれるのではない。女になるのだ。と言ったのはボーヴォワールだったけれど、こと役者に関して言うと、事情はいささか異なる。役者は主役に生まれるのではない。誰かが主役に抜擢してくれるのを待っているのである。

 「主役になりたい!」と叫び続けたところで、そうなれる人となれない人がいる。ふっとオーディションを受けたら、主役から始まってしまう人生がある。

 高畑充希の人生は、まさにそういうものだ。

 大阪府東大阪市に住む普通の中学生だった彼女は2005年、こんなオーディションを見つけた。

「『あなたも第二の藤原竜也になれる!』というふれこみで、山口百恵さんのトリビュートミュージカルの主役を募集していたんです。まったくの素人の中から主役を選ぶオーディションなんて、そんなにないじゃないですか。『私、呼ばれている!』と思いました」

 舞台『プレイバックpart2~屋上の天使』のヒロイン募集に対し、応募者は9621通。

「最終は4次審査までありました。初めて東京に呼び出されたのは第2次だったのかな。飼い犬のモグに『とりあえず、行ってくるわ』って話しかけて家を出ました。東京麹町に初めてのひとり旅ですよ」

 後日、最後の11人に残ったと電話で通知があった。最終審査は合宿形式だったという。

「めっちゃ踊れる子。めっちゃ歌える子。みんなすごかった。私はヤマハのコーラス教室くらいしか行ってなかったし、踊りも踊れない。呼ばれてる感はどこへやら(笑)。『私的にはあの子がイチ押しかな』なんて見ていました。最後に名前を呼ばれたときはフリーズしてしまったくらい、びっくり!でした」

 受かった人が誰でも言う、あの台詞を口にした。

「受かると思ってなかったから。緊張せず、自由で、気楽なのがよかったんじゃないですか」。

  • 出演:高畑充希

    1991年大阪府生まれ。AB型。山口百恵トリビュートミュージカル『プレイバックpart2~屋上の天使』主役オーディションでグランプリ。2005年12月にデビュー。数々の舞台でヒロインを務め、ドラマ、映画にも出演。声優、歌手としても活躍。7月20日から東京国際フォーラムで始まる『ピーターパン』で6年目の座長をつとめる。11月18日からは東京・青山劇場『アリス・イン・ワンダーランド』にも出演。ホリプロ所属。

    ミュージカル『ピーターパン』2012公式サイト
    http://hpot.jp/peter/top.html

  • 取材・文:森 綾

    1964年8月21日大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1200人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には女性の生き方についてのノンフィクションが多い。『キティの涙』(集英社)の台湾版は『KITTY的眼涙』(布克文化)の書名で現在ベストセラー中。
    http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太