最近、街を歩いていると20~30代のいわゆる「女子」がでかい一眼レフのデジタルカメラを首から下げて歩いているのによく出くわす。携帯の写真機能もスマートフォンになって更にアップした。ブログ、SNSなんていう発表の場もあるものだから、ご飯を前に一枚、満月だといえば一枚、と、あちこちでカシャカシャとシャッター音が耐えない。いわば一億総カメラマン時代である。

 こんな時代にプロのフォトグラファーというのはどこがどう違うのだろう、と不思議に思う人が出てきてもおかしくはない。カメラ自体、素人のほうが高いものを持っているケースもあるからだ。

 しかし機材が同じになっても「普通の人」と「プロのフォトグラファー」は違うのである。プロのフォトグラファーである萩庭桂太の周りにはやはりプロが集う。その人たちを見ていても、違う、のだ。

 一番わかりやすい違いは執念だ。

 被写体に対しての執念が違う。普通の人は「一瞬を切り取る」ことで満足するが、プロの彼らの気持ちはそこに安住しない。写す前も写した後もそこに自分との様々な深い関わりを見ようとする。被写体との、何か目に見えないものを所有したがる。それを「責任」と呼ぶフォトグラファーもいる。

 わかりやすくいえば、普通の人の写真は「思い出」になるのに、プロの写真は「作品」や「商品」になるということだ。

 私はずっと不思議に思っていた。萩庭桂太という人がなんでプロのフォトグラファーになったのか、ということだ。

「たまには萩庭さんのインタビューをしますから、なんかおごってください」

「いいよ。お寿司でも行こう」

 おなかが出てきてるな、と思っていたら、太っ腹にもなっていた。久兵衛かしら? せめて赤坂の写楽くらいには連れてってくれるかしら? 私は浮き足立った。たまにお寿司を食べられるなら、このギャラのない仕事も悪くはない。

「この近くにすっごいうまい寿司屋があるんだ」 

 萩庭桂太写真事務所は九段下にある。ああ、寿司政じゃないかな。しかし行き先は神保町界隈である。嫌な予感がした。

「へーい。いらっしゃい」

「え……」

 自動ドアが開くと、そこは、なんということか、…… 回っていた。

「か、回転寿司ですか」

「うまいよー。ここ」

 客席は50くらいあるのだが、8~9割埋まっている。その日は近所の神社のお祭りがあったらしく、家族連れがわいわいいる。

「サビ抜きでサーモンください!」

 でかい声で叫ぶガキんちょがいる。なぜ下町のガキんちょはこんなに元気なんだろう。

 一皿137円。

「それもさ、2貫のうち、1貫ずつ違うのが選べるんだよ。ハーフ&ハーフ。回ってるのだけをとらなくてもいいんだよ」

「へえ。それは……いいですね」 

 まず席につくと、自分でお湯呑みにお茶をつくるシステムになっている。ささっとお茶粉を入れ、目の前の蛇口をぎゅっと押してお湯を注ぐ。まるで銭湯の洗い場で寿司を食べる気分である。

「アボカドとほぐしカニ軍艦、ハーフで」

 捨て鉢になって叫ぶと「あいよー」と威勢のいい声が返ってくる。よく見ると、シャリが黒い。黒酢? それとも醤油を使って、あえて米粒を固めてるのかもしれない。私は京都の有名店で食べた鯛飯を思い出してため息をついた。

 でもまあ、これはこういうものだと思って食べると、まずくはない。だいたい、繁盛しているからネタは新鮮だ。ただし、どこどこ産とかお品書きに一切書いていない。そして不可思議なネタ名が連なっている。「バラ明太大辛軍艦」とか「ビントロ」とか……。萩庭桂太は嬉しそうに説明する。

「ま、日本産の魚は使ってないんじゃないの。 あ、やりいか姿、ってなんだろ? やりいか姿くださーい」

 ひげみたいな足をショボショボつけたちっこいイカが一匹ずつ載った珍品だった。

 BGMは『東京砂漠』。

 出来過ぎや、と私は粉茶をすすった。

(取材・文:森 綾)

  • 出演:RINA

    ブラジル生まれ。イタリア系ブラジル人の母親と日本人の父親の間に生まれる。身長172センチで股下90センチというプロポーションをもち、多くの女性ファッション誌やCMでモデルとして活躍中。
    http://www.rinafujita.com/

  • 取材・文:森 綾

    1964年8月21日大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て92年に上京後、現在に至るまで1200人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には女性の生き方についてのノンフィクション『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)など多数。
    http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太