以前から疑問に思っていたのが、この連載にイケメンを登場させてはいけないのだろうか、ということである。

 いくら企画の発端がもともと「原色美女図鑑」を立ち上げたN局長の鶴の一声だとはいえ、週刊文春WEBには意外に女性読者も多いのではなかろうか。半分くらいはいるんじゃないの? いや、少なく見積もっても40%くらいは、知的な大人の女性読者がいそうではないか。

「でね、たまにはイケメンが出てくるなんていうのも、いいと思うんですよねー」

 私はそれとなく、時々、萩庭桂太との会話の端々にサブリミナル効果のようにそんな言葉を入れてみた。その度に萩庭桂太はパブロフのイヌの条件反射のように、ムッとするのである。

「男は男の写真なんか見たくないの。なんか中身がすっごく面白いとか、道具が凝っているとか、そういうのだとまだ多少は読むかもしれないけどさー」

「そうですかねえ」

 自分の思い通りにしか物事を進めたくない男に、あからさまに反論してはいけない。これは酸いも甘いも会社創設も離婚も経験してきた私の人生訓である。ちょっとずつちょっとずつ。99譲って1取ればいいのだ。

 私にはどうしても登場させたい人がいたのである。

 マリンバ奏者のSINSKE。

 8年くらい前に、六本木ヒルズのアリーナでJ-WAVEが開催したライブに登場したSINSKEの演奏を聴いて以来、私はいつかこの人のインタビューをちゃんとやりたい、できればワインBARで、二人だけで、と思ったものであった。

 以来、「私、小学校のとき、マリンバをやっていたんです」とSNSのコメントでアプローチし、少しずつ距離を縮めてきた。そして昨今、とあるワイン会で彼の隣席を射止めた私は、こんな素敵な情報を至近距離で聴いたのであった。

「尺八の藤原道山さんと“尺八とマリンバによる世界最小オーケストラ”というタイトルで、4年越しで共演しているんですが、今年は初めての東京公演で浜離宮朝日ホールが即日完売したんですよ。で、追加公演が決定したんです」

 私はこれだ、と思った。東京、大阪、千葉、福岡と、全国でツアーをやるのだという。

 こ、このチャンスを逃してはいけない。

 さっそく萩庭桂太に楽しいワイン会以外の情報を報告すると、しぶしぶOKしてくれた。

 N局長にはメールをした。

「今回は尺八の藤原道山さんと、マリンバのSINSKEさんを取り上げます。男ですみません」

 N局長からの返信はひと言だった。

「がちょーん」

 なぜ男はそこまでイケメンが嫌いなのだろう。それはたぶん、男は誰でも「自分は相当いけてる」と思っているからかもしれない。かの思想家、内田樹先生も書いておられた。

「男はルックスをほめられると必ず落ちる」と。……ううむ。

 今週は「いい男とは何か」、「中年としていかにモテるか」について、男性読者の皆さまもご一緒に考えてください。

(取材・文:森 綾)

  • 出演:藤原道山&SINSKE

    尺八の新たな魅力を拓く若き第一人者として邦楽のみならず幅広いジャンルで活躍中の藤原道山(ふじわらどうざん)。ヨーロッパで研鑽を積み数多くの受賞歴をもつマリンバ奏者SINSKE(シンスケ)。二人による 尺八とマリンバのユニットは、まるでオーケストラのように多彩。ラヴェル作曲「ボレロ」など「世界最小編成オーケストラ」の愛称で各地のコンサートやイベントで非常に高い評価を得ている。それぞれのソロも交え、邦楽、クラシック、オリジナル作品という幅広いレパートリーで構成する初の全国ツアーが、5月6日の長野(松本)を皮切りにスタートしている。
    http://www.dozan-sinske.com/
    http://www.youtube.com/watch?v=PMxNKVFDy0c

  • 取材・文:森 綾

    1964年8月21日大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て92年に上京後、現在に至るまで1200人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には女性の生き方についてのノンフィクション『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)など多数。映画『音楽人』(主演・桐谷美玲、佐野和眞)の原作となったケータイ小説『音楽人1988』も執筆するほか、現在ヒット中の『ボーダーを着る女は95%モテない』(著者ゲッターズ飯田、マガジンハウス)など構成した有名人本の発売部数は累計100万部以上。
    http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太