今回は3月24日公開の映画『僕達急行-A列車で行こう』に関わる人たちを取り上げる。と、決めてきたのは、もちろん萩庭桂太である。例によって撮影優先でしか取材日を決めてこなかった。

「あ、その日は別の仕事が入ってまして。一人で行って来てください」。そう言って、同行をあっさり断ると、電話の向こうからムッとした気配が伝わってくる。私は思い直してこう言った。

「でも、ちょっと心配ですね」

「で、でしょー。ぼくだって、一人で撮影に行くのなんて初めてなんだよ」

「いや、そうじゃなくて。撮影中、あの高いカメラを誰が見張ってるのかなあと思って」

「……」

 萩庭は、かの世界的写真家、エリオット・アーウィット氏が「どないやねん」と鼻白んだLeica M-9の3台持ちを常としている。アシスタントを雇いたかったらそれを1台売りなはれ、というわけなのだが、今回は撮影した皆さんに後からいただいたコメントを中心に、映画の見どころなどを交えながらお伝えすることとしよう。

 映画は鉄道オタクの二人、小町圭(松山ケンイチ)と小玉健太(瑛太)がひょんなことで出会い、友情をあたためるうちに、それぞれの職場での難題、失恋の痛手までも乗り越えていくというハッピーストーリー。

 まずは主人公の小町(松山ケンイチ)を駅で逆ナンパし、オタクな彼氏を理解しようと頑張る相馬あずさ役の貫地谷しほりさん。

 眼鏡店のOLという役どころで、様々な眼鏡をかけて彼をうっとりさせるシーンが笑える。この映画は基本的に鉄道オタクな二人が主人公なのだが、ほかのジャンルの「オタク」にも共通する人間的特徴が描かれていて面白い。オタクなあまり、現実の人間関係は極端に不器用な人たちがそれでもなんとか繋がっていこうとする健気さがたまらない。

 監督は故・森田芳光。彼自身もかなりの鉄道オタクだったらしい。自らの趣味が遺作になるとは、まるでこの映画のエンディングロールの先にある物語のようだ。

 恋愛にも合理的でひとりよがり、でもどこか微笑ましい現代女性を演じた貫地谷しほりさんはこう言っている。

「もうすぐ、というか、やっとこの映画が公開されます。撮影していたのは一昨年の夏頃。森田監督もやっと一息つけるのではないでしょうか。この映画に悪役は一人も出てきません。鉄道好きという共通の趣味がたくさんの人を繋げていきます。現実世界がこうだったらと願わずにはいられません。森田監督の思いをぜひ劇場で堪能してもらいたいです」

(取材・文:森 綾)

映画『僕達急行-A列車で行こう』

2012年3月24日(土)より全国公開
http://www.boku9.jp

  • 出演:貫地谷しほり

    1985年12月12日、東京都生まれ。出演作に映画『スウィングガールズ』(04)、『パレード』(10)、TV『ちりとてちん』(NHK/07-08)、『ブザーヒート~崖っぷちのヒーロー~』(CX/09)『龍馬伝』(NHK/10-11)など。
    http://kanjiyashihori.com/

  • 取材・文:森 綾

    1964年8月21日大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て92年に上京後、現在に至るまで1200人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には女性の生き方についてのノンフィクション『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)など多数。
    映画『音楽人』(主演・桐谷美玲、佐野和眞)の原作となったケータイ小説『音楽人1988』も執筆するほか、現在ヒット中の『ボーダーを着る女は95%モテない』(著者ゲッターズ飯田、マガジンハウス)など構成した有名人本の発売部数は累計100万部以上。
    http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太