現在、中別府葵は『GINGER』と『mina』という二つの女性誌でモデルもしている。2つの雑誌で見る彼女はまったく違う顔をしている。

『mina』では等身大の女子大生風。『GINGER』ではちょっと背伸びしたいい女風。その二つを見比べても、まだまだいろんな顔が見られそうな気がしてくる。

 基本は女優。今、目指すところは「ミュージカル」だ。

「今年中にミュージカルの作品を一本、自分の力で勝ち取りたいと思っているんです」

 実は昨年、あるブロードウェイ・ミュージカルの日本版のオーディションに最終まで残った。

「結局、それはダメだったんですけど、そこまで残る可能性があるということがわかった。可能性があるなら、チャレンジしてもいいんじゃないかと。歌はまだまだですが、鍛えていきたい。ミュージカルをやるための武器を増やしていきたいんです」

 ミュージカルは見るのも大好きだという彼女。一番やりたい役は、と投げかけてみると、急に両腕を前で寄り添わせ、しゅん、と小さくなってしまった。

「ミュージカルは大好きだから、おそれ多くてそんなことはとても言えません」

 おそれ多い、という気持ちをもてるのは素敵な事だと思う。

 ブラームスはおそれ多くて「交響曲」になかなか手が出せなかった。その後、『交響曲第1番』のような名曲を生んでいる。ある作家さんも言っていた。先達の誰かの作品を読んで「自分にはとてもこんな作品は書けない」と絶望するとき、書けるかどうかはともかくとして、その人はその世界の端っこに一歩足を踏み入れているんだと。

 たぶん、彼女はそういう絶望を味わいかけているのだと思う。

 だから今、大学を休学して、演技に打ち込もうと決めてしまったのだ。

  • 出演:中別府葵

    1990年熊本県生まれ。血液型A型。172センチの長身で演技にモデルにと活躍する女優。08年にテレビ東京のドラマ24「ウォーキン☆バタフライ」で初主演し、その存在感が話題を集める。その後、テレビや映画に出演、今年3~4月、日比谷・シアタークリエなどで上演された白井晃演出『幻蝶』では、ストリッパー役を好演した。9月には東京・天王洲の銀河劇場『ハイスクール歌劇団☆男組』にも出演する。
    http://horipro.co.jp/talent/PF097/

  • 取材・文:森 綾

    1964年8月21日大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て、92年に上京後、現在に至るまで1200人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には女性の生き方についてのノンフィクションが多い。『キティの涙』(集英社)の台湾版は『KITTY的眼涙』(布克文化)の書名で現在ベストセラー中。
    http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影:萩庭桂太