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 小松美羽が注目されるようになったのは、3年前に出た阿久悠のトリビュートアルバムで描いたピンクの象の絵だ。10人ほどの候補のなかから、彼女の絵が選ばれたのだそうだ。しかし最初に3日間で描きあげてきたという絵はもっとおどろおどろしい絵だった。それを可愛らしく描き直したのだという。

「3日で描いて、と言われたときは夜で、そうするとあと2日しかないと思うとじっとしていられなくて、打ち合わせの途中で『帰っていいですか』と飛んで帰って描きました。これができなかったらプロデューサーに失望されると思って必死だったんです」

 言われたことに柔軟性をもって真摯に対応する。アーティストといえば頑固だったりわがままだったりするものだが、彼女には、そんなところはみじんもないのだ。

 女子美で銅版画を専攻したのには何か理由があったのだろうか。

「小さい頃、絵本を見ていたら好きな線があって。女子美に入って、油絵は必修なんですけど、1週間はオリエンテーションで日本画、彫塑、金工、陶芸といろいろ回るんです。そのとき、銅版画の線を見て『ああ、この線だ』とわかったんです。私が大好きだったあの絵本の線が見つかったと思いました。でも入学者の9割が油絵のレッスンに通っていた人だったから、デッサンしか勉強していない私の出遅れはひどかったです。最初の頃の絵は別に細かく描いてもいないし、人には見せられないですね」

 元気に話すが、まだ打ち解けたふうには見えない。人見知りなんだろうな、と思った。一人でものをつくる人独特の、距離感が、かえって私には心地よく感じられた。

(取材・文:森 綾)

  • 出演:小松美羽

    1984年11月29日、長野県生まれ。趣味は狛犬研究、漫画や小説の創作、なぎなた(北信越3位)、水泳と幅広い。女子美術大学短期大学部卒。2004年度 女子美術大学 優秀作品賞、日本版画協会版画展 入選。2012年 小松美羽作品展「画家の原点回帰 ~ウガンダ~」(オリンパスギャラリー東京・大阪)
    http://www.miwa-komatsu.com

  • 取材・文:森 綾

    1964年8月21日大阪市生まれ。スポニチ大阪文化部記者、FM802開局時の編成部員を経て92年に上京後、現在に至るまで1200人以上の有名人のインタビューを手がける。自著には女性の生き方についてのノンフィクション『キティの涙』(集英社)、『マルイチ』(マガジンハウス)など多数。映画『音楽人』(主演・桐谷美玲、佐野和眞)の原作となったケータイ小説『音楽人1988』も執筆するほか、現在ヒット中の『ボーダーを着る女は95%モテない』(著者ゲッターズ飯田、マガジンハウス)など構成した有名人本の発売部数は累計100万部以上。
    http://blogs.yahoo.co.jp/dtjwy810

撮影協力:世界堂新宿本店 http://www.sekaido.co.jp
撮影:萩庭桂太